ゴキブリが嫌われる理由のひとつが、ツヤツヤと黒光りする見た目。でも、世界中に4000種以上いるゴキブリのなかには、その常識を覆す美しい姿の種類が多く存在するのです! キラキラと輝く体のもの、しま模様をしたものなど、その姿かたちはさまざま。そんな彼らに魅了されたゴキブリスト・柳澤静磨さん(静岡県磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員)に、とくに美しいゴキブリ16種を選んでいただきました。
多種多様な美しさをもつゴキブリ
「美しい」と感じる基準は人それぞれですが、ここでは、いわゆるゴキブリのイメージを覆す、鮮やかな見た目の種類を柳澤さんにチョイスしていただきました。体の配色がカラフルなもの、キラキラと宝石のように輝くものなど、多種多様なゴキブリたち。
そんな「美しいゴキブリ」たちをさっそく見ていきましょう!
ゴキブリの姿かたちは、生息している環境によって違ってくるんじゃ。地面、木の中、葉っぱの上、土の中など、それぞれの生息地で安全に暮らせる見た目になっているんじゃよ。

日本の綺麗なゴキブリ
日本に生息している57種のゴキブリから、柳澤さんセレクトの5種を紹介します。
日本一美しいルリゴキブリ
オスは林縁部を舞うように飛翔しているところを目撃されています。
和名 | ルリゴキブリ |
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学名 | Eucorydia yasumatsui |
体長 | オス10~13mm、メス15~16mm |
生息地域 | 石垣島・西表島 |
日本が誇る美しいゴキブリ。オスは、メタリック感の強い瑠璃色をしています。「キラキラと輝いて本当にキレイです」と柳澤さん絶賛の種類です。メスは、翅が短く、腹部のオレンジ色がチラリと見えているのが特徴。オスもメスも、触角の先が一部分だけ白くなっているのもキレイですね。
かわいい!リュウキュウモリゴキブリ
細長い繊細な肢をしています。
和名 | リュウキュウモリゴキブリ |
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学名 | Episymploce sundaica |
体長 | オス・メス約14mm |
生息地域 | 沖縄本島・久米島・宮古島・石垣島・西表島・南大東島・台湾・スマトラ島・ニューギニア島・オーストラリア |
体全体に透明感があり、薄くオレンジがかっている、かわいい小型のゴキブリです。「走ったり、飛んだりすると、光を反射して、キラキラと輝くんです」と柳澤さん。
日中は落ち葉の下に隠れていて、夜になると活動します。少しチャバネゴキブリにも似ていますね。
かっこいい美しさをもつサツマゴキブリ
翅は退化しており、三葉虫のような姿をしています。
和名 | サツマゴキブリ |
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学名 | Opisthoplatia orientalis |
体長 | オス25mm内外、メス30~35mm |
生息地域 | 北海道・本州(静岡、和歌山、兵庫、広島)・伊豆諸島・四国南部・九州南部・種子島・奄美大島・沖縄・八重山諸島・台湾・中国南部 |
「ツヤのある黒色の体に、赤色の縁取りがアクセントになっていて、かっこいいです」と柳澤さんが褒めるサツマゴキブリ。日本らしい色合いで、品のある美しさが感じられます。体は扁平で、ゴキブリらしくないフォルムです。
なんと、中国ではいまでも薬として用いられているゴキブリです。
薬になるゴキブリについて詳しくは⇒『💊薬用ゴキブリの歴史:中国では現役!漢方薬にサツマゴキブリ』
クリアな翅が魅力!ウスヒラタゴキブリ
まるでオブラートのような翅をもっています。
幼虫はさらに透明感があり、外敵から見つかりにくいです。
和名 | ウスヒラタゴキブリ |
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学名 | Balta pallidiola pallidiola |
体長 | オス・メス9~12mm |
生息地域 | 本州・四国・九州・五島列島・津島・種子島・屋久島・トカラ列島・奄美大島・徳之島・沖永良部島・与論島・沖縄本島・宮古島・石垣島・西表島・南大東島・台湾・東南アジア |
透明な翅をもつゴキブリ。柳澤さんによると、このような翅をもつゴキブリは太陽光が当たると、体の輪郭がわかりづらくなり、外敵から狙われにくくなるとのこと。葉っぱの隙間や上で生活している種類です。

草や、葉っぱの上に生息しているゴキブリは透明感が強い傾向にあります。なぜなら、鳥などから狙われた時に、体が透明だと周囲の色と同化して、カムフラージュできるからです。
2つの斑紋が目印!フタテンコバネゴキブリ
前翅は小さく退化しています。
和名 | フタテンコバネゴキブリ |
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学名 | Lobopterella dimidiatipes |
体長 | オス9mm内外、メス10mm内外 |
生息地域 | 奄美大島・沖縄本島・宮古島・石垣島・西表島・台湾・フィリピン・スマトラ島 |
「派手な色ではないですが、透明感のある肢をもっているなど、繊細でキレイな種類だと思います」と柳澤さん。体は光沢のある黒色で、灰色の縁取りが入っています。小さな前翅(ぜんし)に、2つの黄褐色の点があることが、名前の由来です。
毒々しさが美しい!?イエゴキブリ(ハーレクインローチ)
ゴキブリに見えない模様をしています。
和名 | イエゴキブリ(ハーレクインローチ) |
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学名 | Neostylopyga rhombifolia |
体長 | オス20mm、メス25mm |
生息地域 | トカラ列島・奄美大島・与論島・沖縄本島・宮古島・石垣島・国外では全世界 |
茶褐色と薄いだいだい色の斑紋が印象的な種類です。「見る人によっては、ゾッとするかもしれませんね」と柳澤さんがいうほど、毒々しいと思われるビジュアルをしています。ふいに遭遇したら、ちょっとびっくりしてしまいますね。
日本ではあまり見かけなくなっている貴重なゴキブリです。
外国の美しいゴキブリ
続いては、柳澤さんがセレクトした外国の美しいゴキブリをご紹介。唯一無二の美しさと称されるものから、柳澤さん一押しのものまで、多彩な見た目をもつゴキブリを見ていきましょう。
唯一無二の美しさ!グリーンバナナローチ
ガラス細工のような翅と、透明感のある肢をもっています。
和名 | グリーンバナナローチ |
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学名 | Panchlora nivea |
体長 | オス約12~15mm、メス約24mm |
生息地域 | 中南米 |
鮮やかなエメラルドグリーンの体をした、唯一無二の美しさをもつゴキブリです。腹部の縁に少し黄色が入っているなど、ゴキブリ感のないカラーリングをしています。「クリっとした黒目が、チャーミングだと思います」と、柳澤さんもお気に入りの種類です。ペットとしても人気がある種類で、専門のペットショップなどで販売されています。
ペット用ゴキブリについて詳しくは⇒『ペット用ゴキブリ!?熱帯倶楽部さんに聞いた人気種と飼育のコツ│マダガスカル・ヨロイモグラなど』
モノクロでオシャレなモンシロゴキブリ
全身モノトーンのシックなゴキブリです。
和名 | モンシロゴキブリ |
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学名 | Paranaupboeta formosana |
体長 | オス約21mm、メス約27mm |
生息地域 | 台湾 |
「身を守るために、鋭い口で敵の体液を吸う昆虫・サシガメに擬態しています」と、柳澤さんが教えてくれたのはモンシロゴキブリ。べースは黒色で、胸部には白い縁取り、前翅には白色の斑紋があります。少しだけ見えている腹部背面も同じ配色です。トータルコーディネートされたオシャレなゴキブリです。
サングラスをかけている!?ゼブラローチ
ペット用のゴキブリとしても人気の種類です。
和名 | ゼブラローチ |
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学名 | Eurycotis decipien |
体長 | オス・メス約24~32mm |
生息地域 | コスタリカ・トリニダードトバゴ共和国 |
ゼブラ柄のゴキブリです。黒色で縁取られた胸部の中央には、サングラスのような黒色の斑紋があります。ミツバチのようにも見えるキュートさも、魅力のひとつです。柳澤さんは「映画『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソに似ている!」とおっしゃっていました。
模様がキュートなブラベルスギガンテウス
大型種が多いブラベルス属の仲間で最大の種類です。
和名 | ブラベルスギガンテウス |
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学名 | Blaberus giganteus |
体長 | オス・メス約73~85mm |
生息地域 | メキシコ・グアテマラ・パナマ・コロンビア・ベネズエラ・トリニダードトバゴ共和国・ガイアナ・スリナム・フレンチギアナ |
べっこう細工のような、透明感のある翅がとても美しい種類です。翅は、先にいくにしたがって、グラデーションがかっています。「翅を広げると、前胸部に笑った顔『(‘ω‘ )』の模様があるなど、かわいい一面もあるゴキブリです」と、柳澤さん一押しのゴキブリです。
2トーンカラーのオレンジヘッドビュレットローチ
頭部のオレンジ色がアクセントになったゴキブリです。
和名 | オレンジヘッドビュレットローチ |
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学名 | Oxyhaloa deusta |
体長 | オス約13mm、メス約20mm |
生息地域 | 南アフリカ共和国・モザンビーク・ジンバブエ・ボツワナ・アンゴラ・コンゴ民主共和国・ルワンダ・タンザニア・ケニア・ソマリ |
このゴキブリの特徴は、オレンジ色の頭部。ツヤツヤとしており、翅、肢、腹部、触角などはすべてマットな黒色をしています。オレンジ色と黒色の対比が美しいですね。柳澤さん曰く、「見る人によっては、毒々しいと思うかもしれないですね」とのことでした。
配色が素敵!ペールボーダーフィールドローチ
オス(写真上)もメス(写真下)も、胸部にクリーム色の縁取りが入っています。
和名 | ペールボーダーフィールドローチ |
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学名 | Pseudomops septentrionalis |
体長 | オス・メス約9~15mm |
生息地域 | アメリカ・メキシコ・コスタリカ |
オスとメスでカラーが異なるゴキブリです。「オスは、茶褐色の翅にオレンジ色の胸部をもっています。メスは、紺色の翅にオレンジ色の胸部が特徴的です」と柳澤さん。オスもメスも、触角の一部分がオレンジ色になっているのも素敵です。
歩く宝石!?キンイロゴウシュウゴキブリ
ド派手なカラーが目を引きます。
撮影/Jean and Fred
和名 | キンイロゴウシュウゴキブリ |
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学名 | Polyzosteria mitchelli |
体長 | オス・メス約50mm |
生息地域 | オーストラリア |
三葉虫のような体は、緑色のベースに黄色のしま模様が入っています。肢は黄色と水色の2カラー仕様で、トゲは黒色。さらに、触角はオレンジ色という、まさに歩く宝石のようなゴキブリです。柳澤さんが憧れるゴキブリでもあります。
メタリックカラーのオオルリゴキブリ
ルリゴキブリの仲間なので、触角の一部が白くなっています。
和名 | オオルリゴキブリ |
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学名 | Eucorydia dasytoides |
体長 | オス11~18.5mm、メス12~17.5mm |
生息地域 | ベトナム・中国・台湾 |
「ルリゴキブリの仲間はみんなキレイですね」と柳澤さんがいうように、青色~緑色のメタリックカラーに目を奪われるゴキブリです。前翅の中央後方にある、オレンジ色の紋がアクセントになっています。名前のとおり、体の大きさがルリゴキブリの倍ほどある大型の種類です。
バイカラーが美しいキスジワモンゴキブリ
肢と触角は細長く繊細です。
撮影/Len Worthington
和名 | キスジワモンゴキブリ |
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学名 | Hemithyrsocera vittata |
体長 | オス・メス約10~14mm |
生息地域 | インド・ミャンマー・タイ・インドネシア・マレーシア・ランカウイ島 |
黒色と黄色のバイカラーが印象的なゴキブリです。前翅の側縁には、グラデーションがかった黄褐色の模様が入っています。胸部には黄色の縁取りがあるなど、とてもオシャレな配色の種類です。
全部位に模様あり!ムネマダラオオゴキブリ
黒色と淡い褐色が、さまざまな模様となって体を彩ります。
和名 | ムネマダラオオゴキブリ |
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学名 | Caeparia donskoffi |
体長 | オス・メス約22~30mm |
生息地域 | ラオス・ベトナム |
「ゴキブリとは思えない派手さです」と柳澤さんがいうムネマダラゴキブリ。なんと、部位ごとに異なる模様をしているのです。頭部は縦じま、胸部はまだら模様、上翅は横じま、そして肢や触角にも模様が入っています。1度見たら、絶対に忘れられないゴキブリです。
人の手によって誕生した美しいゴキブリ
ペット用として飼育されているゴキブリには、人工的に交配を重ねて形質を固定させた系統があります。今回はそのなかのひとつ、ゴールデンデュビアに注目してみました。
金色に輝くゴールデンデュビア
金色の翅は、全体的に透明感があります。
和名 | ゴールデンデュビア |
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学名 | Blaptica dubia |
体長 | オス・メス約60mm |
生息地域 | 南米 |
まれに生まれる黄色味の強い個体どうしを掛けあわせて誕生したゴキブリ。「翅が金色をしていて、すごく美しいです」と柳澤さん。黄金色をしたデュビア、縁起が良さそうですね。
通常色のデュビアについて詳しくは⇒『ペット用ゴキブリ!?熱帯倶楽部さんに聞いた人気種と飼育のコツ│マダガスカル・ヨロイモグラなど』
美しいゴキブリを紹介する企画展
「魅力あるゴキブリたちを、間近に見たい!」
そんな方にオススメなのが、ゴキブリの生体展示が楽しめる企画展です。世界の珍しいゴキブリを、存分に観察することができます。
ぜひ、イベント情報をチェックして訪れてみてはいかがでしょうか。きっと、美しいゴキブリが動く姿に、魅了されるはずですよ。
まとめ
今回は、ゴキブリスト・柳澤静磨さんに世界の「美しいゴキブリ」16種をご紹介いただきました。
- ルリゴキブリ
- リュウキュウモリゴキブリ
- サツマゴキブリ
- ウスヒラタゴキブリ
- フタテンコバネゴキブリ
- イエゴキブリ(ハーレクインローチ)
- グリーンバナナローチ
- モンシロゴキブリ
- ゼブラローチ
- ブラベルスギガンテウス
- オレンジヘッドビュレットローチ
- ペールボーダーフィールドローチ
- キンイロゴウシュウゴキブリ
- オオルリゴキブリ
- キスジワモンゴキブリ
- ムネマダラオオゴキブリ
- ゴールデンデュビア
日本産のゴキブリは、派手さはないものの、光の加減で輝いたり、渋い色をしていたりと、趣のある種類が多いですね。
いっぽう、外国のゴキブリは、カラーバリエーションが豊かなものや、パキッとした色合いの種類がたくさんいました。
ゴキブリのイメージを180度変えてくれる「美しいゴキブリ」たち。多種多様な彼らを通して、ゴキブリへの苦手意識をなくしていってみてはいかがでしょうか。
※体長データは翅を含めない長さを示しています。
取材協力
静岡県磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員/ゴキブリスト
柳澤静磨さん(Twitter/ブログ「ゴキブリ屋敷」)
※記事内のゴキブリの写真はすべて柳澤静磨さんによる撮影(キンイロゴウシュウゴキブリ、キスジワモンゴキブリは除く)
静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園職員。企画展「ゴキブリ展G(グレート)(2019年開催)」や「ゴキブリ展3(2020年開催)」、さらにゴキブリの生態を紹介するトークショーなど、ゴキブリの魅力を伝えるイベントを担当。また、自宅でも国内外のゴキブリを多数飼育するほか、日本産ゴキブリを採集するために定期的に南西諸島へ訪れている。
過去に柳澤さんにご協力いただいた記事一覧はこちら