2021年6月1日、日本産ゴキブリに新たな仲間が記載されました!
その名もツヤアカゴキブリ(Periplaneta gajajimana sp. nov.,)。名前のとおり、赤い体をしたゴキブリです。今回は、発見者であり衛生害虫のスペシャリスト・小松謙之さん(株式会社シー・アイ・シー)にお話しをお伺いすることができました。
偶然の採集から始まったというツヤアカゴキブリの研究。いったいどんなエピソードが飛び出すのでしょうか!?
取材協力:株式会社シー・アイ・シー
日本産ゴキブリに新種登場!衛生害虫のスペシャリスト・小松謙之さん(シー・アイ・シー)に取材
ツヤアカゴキブリの新種記載論文を発表された小松謙之(のりゆき)さん。
害虫駆除のエキスパート・株式会社シー・アイ・シーで、害虫の飼育・研究に携わっていらっしゃる衛生害虫のスペシャリストです。
ゴキブリ好きなら「ゴキブログ」の執筆者さんとしてお馴染みですね。
飼育や成長の様子をはじめ、採集日記や失敗談など、論文や専門書では語られることのないエピソードを発信されています。(ゴキラボ編集部もゴキブリ飼育時に参考にさせていただいていました)
また2021年6月4日(虫の日!)からはYouTubeチャンネル「ゴキブログチャンネル」
を開設し、正しいゴキブリの飼育方法を発信中です。
どちらもゴキブリファンはもちろん、昆虫好きも楽しめる内容なので、ぜひ訪れてみてください。
始まりは偶然の出会いから!新種の赤いゴキブリ
今回発見されたツヤアカゴキブリ(♂)と幼虫。どちらも赤くてツヤツヤしていますね。
---2012年11月に鹿児島県十島村臥蛇島(としまむらがじゃじま)で採集されたとのことですが、もともと新種(ツヤアカゴキブリ)の生息情報があり調査をされたのでしょうか。
小松謙之さん
新種がいるとは考えていませんでした。調査の目的はルリゴキブリ属とマダラゴキブリ属の採集だったのですが、その時はどちらも発見できず、本種を採集することができました。
発見された鹿児島県十島村臥蛇島。1970年に無人島となった島です。
---偶然の出会いだったんですね!
その個体が新種では?と気がつかれた“きっかけ”を教えてください。
小松謙之さん
採集したときは幼虫でしたが、ウルシゴキブリっぽいけど、色がテネラル(※)でもないのに赤いのが変わっていると思いました。※羽化直後の短い期間
そして、成虫を見て国内未記録種であることはすぐにわかりました。
採集された場所が港湾(こうわん)などの物流拠点が集中する都市ではなく、現在は人が住んでいないアクセスも昔から限られた場所であることから、鹿児島島嶼(とうしょ/大小の島のこと)の固有種ではないかと考えました。
---幼虫の時から、赤色をしているんですね。まさに名前通り!
自然界では、どのような場所に生息しているのでしょうか。また、臥蛇島いがいでも見ることはできますか?
小松謙之さん
倒木の樹皮下から採集しました。木のうろや朽木の隙間などに生息していると思われます。
臥蛇島のほか、悪石島(あくせきじま)にも生息が確認されました。探せば吐噶喇列島(とかられっとう)のほかの島でも見つかる可能性があります。
現在のところ、吐噶喇列島の固有種といってよいと思います。
---ほかの島でも見られる可能性があるんですね。ぜひ、現地で観察してみたいです。
ちなみに、本州に生息していることはないですか?
小松謙之さん
本州には生息していないと考えています。
---こういった珍しい種はなかなか本州ではお目にかかれないんですね。残念…。
臥蛇島には、ツヤアカゴキブリのほかにも新種が生息している可能性はあるんでしょうか。
小松謙之さん
熱帯亜熱帯の島嶼であればどこもあると思います。また、それ以外の土地でもゴキブリを好きで調査している人は少ないので。まだまだあると思います。
---そうなんですね!ゴキブリ好きとしては、今後が楽しみな情報です!
発見から約9年。イロハから学んだ新種の記載
2012年に発見されたツヤアカゴキブリですが、新種記載までに約9年もの期間がかかっています。新種を発表することは、「見つける」だけではなく、新種であることを証明しなくてはなりません。続いては、そのお話しをお伺いしてみましょう。
---今回、研究を進める過程の中で、大変だったことを教えてください。
小松謙之さん
分類は専門外だったので、分類のイロハから勉強しました。また、日常は仕事をしているので夜や休みの日にしか作業が進められなかったため完成まで時間がかかりました。また、関連する文献は古いものが多く入手するのに大変手間がかかりました。
---新種の記載は発見してからの方が、道のりが長いんですね。
現地調査や、飼育時の思い出深いエピソードなどはありますか?
小松謙之さん
この時の調査は、目的のゴキブリが捕れず未収穫の結果でしたから、たまたま捕った種が新種になるとはその時は考えていませんでした。
飼育当初は、絶やしたら2度と入手できないと思い慎重に扱いましたが、比較的手間がかからない種だとわかりました。しかし。Periplaneta属は集団飼育していると、死亡率が高くなる感染症と思われる病気が発生するので、ケースを複数に分けて管理しました。
---入手が難しい種は、飼育のプレッシャーが違いますね。
ところで、ツヤアカゴキブリの名前には採集地である臥蛇島が入っています。こちらは、小松様たちが命名されたのでしょうか。
小松謙之さん
そうです。
---発見した昆虫に名前を付けられる、ロマンがあります!
今回、日本産ゴキブリとして60種目の記載となりますが、今後も増える可能性はありますでしょうか。
小松謙之さん
可能性は十分あります。新種としての発見や、ヒアリのように新たに持ち込まれて繁殖する外来種(移入種)として発見されるケースなどまだまだ増えると思います。
---国内の固有種ならウェルカムですが、外来種は心配ですね。
生態系を壊してしまうと大変です。
「1匹ぐらいなら」という気持ちが取り返しのつかないことになりかねません。
ツヤアカゴキブリの生態を知りたい!
一筋縄ではいかない研究や調査をへて、日本産ゴキブリとして記載されたツヤアカゴキブリ。特徴や体のサイズ、オスメスの違いなどについて質問してみました。
オスはサイズが大きく飛ぶ可能性も!?
ツヤアカゴキブリのオス。メスと違い翅が長いのが特徴です。
---ツヤアカゴキブリの成虫の大きさを教えてください。
小松謙之さん
体長:♂25~27mm,♀27~29mm,前翅長:♂17.2~19.1mm,♀16.2~18.2mmです。
---メスは翅とお尻のすき間からシマシマのお腹が少し見えているんですね。かわいい。
とてもキレイな赤色をしていますが、個体によって差はあるんでしょうか。またこの色になるタイミングは、羽化の時になりますか?
小松謙之さん
個体差があります。<非常に赤い個体もいますし黒の強い個体もあります。発現(※)の仕方に法則性はないように思います。
※現れて出ること
---個体差があるのは、おもしろいですね。でもオスは黒いとクロゴキブリと見分けがつかなさそうです…。
そういえばオスとメスで翅の長さが違うのは、何か理由があるのでしょうか。またオスの方は飛ぶ(滑空)できますか?
小松謙之さん
理由はわかりませんが、ゴキブリ類は基本的に飛ぶ方向ではなく、歩行に進化しているといわれています。特にメスの翅が退化する傾向があります。
同属のスズキゴキブリやヤマトゴキブリもメスの翅は短いです。オスが飛ぶかは確認していませんが、飛ぶと思います。
---飛べた方が逃げやすい気がするのですが、歩行に進化しているんですね。
確かに逃げ足はピカイチだと思います!
がま口型の卵鞘からは25匹前後の幼虫が誕生!
ツヤアカゴキブリの卵鞘。成虫とちがい、マットな質感。
---卵鞘の形や大きさを教えてください。
小松謙之さん
クロゴキブリによく似た小豆大の卵鞘です。大きさは長さ約12mm,高さ約5mm。
---確かにクロゴキブリの卵鞘にそっくりです!
1匹につき、何個の卵鞘を産みますか?また単為生殖もできるんでしょうか。
小松謙之さん
卵鞘の数は確認していません。単為生殖も実験していないのでわかりませんが、通常はしないと思います。しかし、ゴキブリ類全般として低い頻度ですが単為生殖が見られます。特にPeriplaneta属はワモンゴキブリを代表として条件的単為生殖が普通に観察されており,本種でも沢山の未受精卵鞘があれば数匹は生まれるかもしれません。
---1つの卵鞘から何匹の赤ちゃんが生まれるんですか?
小松謙之さん
25匹前後です。
---幼虫もクロゴキブリにすごく似ていますね。生態も近いのでしょうか。
小松謙之さん
餌はクロゴキブリと同じネズミの固型飼料で飼育でき、飼育環境もクロゴキブリと同じ人工的なシェルターで累代飼育できています。そういった面では近いといえるかもしれません。しかし、クロゴキブリは越冬を成長に組み込んでおり、その点では亜熱帯に産する本種は違うと考えられます。
---ツヤアカゴキブリとクロゴキブリ、卵鞘と幼虫の見た目は似ていますが、越冬休眠はしないんですね。成虫になるまでの期間はどうでしょうか。
小松謙之さん
調べていないのでわかりませんが1年以内だと思います。
---成長期間はワモンゴキブリと比較的似ているんですね。ということは寿命も…?
自然界と飼育下では少し違ってくると思いますが、今後の研究で明らかになってくるのでしょうか。楽しみにしています!
インタビューを終えて
昨年から続くゴキブリの新種記載。
昆虫一の嫌われ者だった彼らが、じょじょに表舞台へと飛び出そうとしているのかもしれませんね。
本来、森の分解者であるゴキブリは、姿も生態もさまざまで、とてもおもしろい昆虫です。ツヤアカゴキブリもそのひとつ。
そんなゴキブリの魅力をゴキラボは、どんどん発信していければと思っています。
2020年に新種記載されたゴキブリについて詳しくは⇒『35年ぶり!2種の日本産ゴキブリを発見した柳澤静磨さん(竜洋昆虫自然観察公園)に取材』