シロアリが木を食べる昆虫というのは、有名な話ですね。
でも、木をどうやって栄養にしているのかについては、あまり知られていないのではないでしょうか。
しかも、シロアリにも好きな木と、そうでもない木があるんだそうです。
彼らが食べる木の特徴を知ることは、対策の第一歩!ということで、アース製薬の研究員さんにお話しを伺いました。
また、シロアリは食物連鎖においては下層の生き物です。シロアリの命を狙う天敵についても質問してみました。
取材協力:アース製薬
なぜシロアリは木材を食べるの?
内藤 龍太さん
髙倉 武さん
シロアリが木を食べるのには、きちんとした理由があります。
それは、彼らが木材の主成分であるセルロースやヘミセルロースを栄養源としているからです。
シロアリは木材を消化してエネルギーに変えることができるということですね。
シロアリラボ・和田のつぶやき
害虫としてのイメージが強いシロアリ。
しかし、自然界では分解者として大切な役割を担っているんです。シロアリに食べられた木は、排泄物として土にかえり、土壌を豊かにしてくれます。
地球の循環に、なくてはならない存在なんですね。
シロアリはどうやって木を消化するの?
シロアリのように、木を食べる生き物といえばパンダ。ですが、彼らはササやタケの食物繊維を上手く消化することができません。そのため、「大量に食べ、寝て消化する」というなんとも原始的な方法で栄養を摂っています。
参考:上野動物園
シロアリもパンダのように、一日中“食っちゃ寝”をしているのでしょうか。
腸にいる原生動物が消化をサポート!
内藤 龍太さん
シロアリの唾液には木(セルロース)の分解酵素が存在します。
シロアリは口内で木材を砕き、その唾液で部分的に消化を行います。
そうして口や胃で砕かれた繊維質は、腸の中にいる原生動物たちに分解され、消化されるというしくみです。これらの原生動物は、高いセルロースの分解能力を持っていて、シロアリのエネルギー源をつくり出す機能があるようです。
腸の中に原生動物…スゴイしくみですね!
シロアリラボ・和田
内藤 龍太さん
ちなみに、生まれたときから、原生生物をもっているわけではありません。原生生物は、ヤマトシロアリで10数種類ほど、イエシロアリで3種類ほどがいます。仲間の腸から原生動物を出してもらい、それをなめ、体に取り入れているようです。
参考:「シロアリの消化」(NHK)
山口大学 シロアリ画像データベースより
鈴木諒平さん
髙倉 武さん
シロアリはゴキブリの仲間で、ゴキブリの祖先から進化しました。現在のゴキブリも、当然ゴキブリの祖先から進化して現在に至っているので、イメージ通りのゴキブリもいるし、よりシロアリに近いゴキブリもいます。ただ、見た目はやっぱりゴキブリなのですが…。
シロアリの祖先はゴキブリ…。
シロアリラボ・和田
鈴木諒平さん
髙倉 武さん
シロアリは、①社会性を持ち、②主食が木、③夫婦で子育て、④働きアリが世話、をします。シロアリに最も近縁な種として、北米に生息するキゴキブリが知られていて、④以外の、①(シロアリよりは低度の)社会性を持ち、②主食が木、③夫婦で子育て、の特長があります。シロアリと同じように腸の中にいる原生動物によって消化を助けてもらいながら、栄養を吸収しています。
キゴキブリとシロアリ、見た目はさっぱりなのに近縁なんですね。ビックリ!
シロアリラボ・和田
【動画】キゴキブリの姿を見たい!という方はこちらをクリック
鈴木諒平さん
髙倉 武さん
その他、日本に生息するエサキクチキゴキブリは①②③の特長を持ちます。また、オオゴキブリは②主食が木ですが、夫婦で子育てをすることは観察されず、社会性を持たないと考えられています。どのような過程を経て木を食べるようになったのか、どのように夫婦で子育てするようになったのか、など国内外で研究が活発にされています。
ちなみに、シロアリもキゴキブリも、ある程度温度が高くなると腸内の原生動物が死んでしまうため、生存できなくなってしまいます。腸内の原生動物は生きていくためにも必須だと考えられます。
シロアリとゴキブリの特長
①社会性レベル | ②主食が木 | ③夫婦で子育て | ④働きアリが世話 | |
---|---|---|---|---|
シロアリ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
キゴキブリ | ○ | ○ | ○ | – |
エサキクチキゴキブリ | ○ | ○ | ○ | – |
オオゴキブリ | (集合性) | ○ | – | – |
クロゴキブリ | (集合性) | – | – | – |
注目!シロアリ生まれの「バイオマス資源」
内藤 龍太さん
シロアリの腸内微生物は様々な研究分野に注目されていて、例えば、それを利用して、木材から効率的にエネルギーを回収する研究が進められています。
シロアリラボ・和田のつぶやき
内藤さんがご紹介されている研究のひとつに、シロアリのセルロースの分解の仕組みがあります。
木の繊維であるセルロースは新エネルギー「バイオマス」として、未来の私たちの生活を豊かににしてくれると期待されているんです。
日本では悪者扱いのシロアリですが、そのポテンシャルは計り知れないものがあります。
インキにバイオマスが使用されている紙コップ
シロアリの好きな木
シロアリは木なら何でも食べるのかと思いきや、そうではありません。
実は彼ら、意外とグルメ。とくに食感にはこだわりがあるようです。
シロアリは枯れ専|朽ち木や切り株に集まりやすい
髙倉 武さん
シロアリは、倒木や切り株のような枯れた木を好みます。生きている木は好きではありません。大木であれば樹皮部付近のみ食べられていることがあります。
鈴木 諒平さん
自然の中で暮らしているヤマトシロアリは、主に朽ち木に巣を造り、朽ち木を食べて暮らしています。ひょっとしたら森に落ちている朽ち木には、シロアリがいるかもしれません。
シロアリはヒノキよりマツ派
鈴木 優八さん
シロアリは、自然界では木材をメインに食べています。
その中でも好き嫌いがありますが、木材の種類・木材の部位・水分の含有量で食べる・食べないが決まってきます。一般的にマツの木はシロアリに良く好まれます。ヒノキはシロアリに食害されにくいという世間の印象がありますが、ヒノキの心材は辺材に比べて食害されにくいだけでなく、産地によっても食害のされやすさは異なります。京都大学の研究では、福島や長野などの”木曽ヒノキ”が食害されにくいとされています。
柔らかい木が好み
内藤 龍太さん
シロアリによる食害を注意深く見ると、全体がきれいに食べられているのではなく、木の年輪に沿って食べ残してあるのに気づきます。
実はシロアリは、噛み砕きやすい木材の軟らかい部分(早材)を進んで喫食し、逆に硬い部分(晩材)は食べ残すという特徴があるんです
樹種によって、シロアリに食べられやすいかどうかは異なりますが、これは、早材と晩材の間隔が強く関係しており、この間隔が狭く、シロアリの体が入りにくいレベルであると、シロアリに食べられにくいと言われています。
シロアリは共食いするの?
鈴木 諒平さん
シロアリは共食いします。(キャー!!!)
率先して共食いはしませんが、弱ったシロアリがあらわれると食べられてしまいます。また、兵アリの頭は固くて残されていることが多いです。シロアリは「木」という限られたエサで活動を続けるため、仲間の命も無駄にせず、栄養として再利用しているのかもしれません。
シロアリラボ・和田のつぶやき
共食いはゴキブリでも見られます。
というのも、以前ゴキラボ編集部でゴキブリを飼育していた時に、幼虫同志で共食いする姿を目撃したことがあるんです!
昆虫界の生存競争の厳しさ、おそるべし!
クロゴキブリの幼虫が共食いする様子(クリックで動画を表示)
シロアリの天敵|食べるだけじゃなくて食べられる
食に並々ならぬこだわりを見せるシロアリですが、自然界に至っては彼らも食材のひとつ。
家を食べてしまうほどのパワーをもつシロアリにも、天敵はいます。
それは私たちの身近にも存在する、あの昆虫なんです!
クモもカエルも、シロアリを食べる
髙倉 武さん
シロアリには、クモやクロアリ、カエル、メクラヘビ、サシガメなど多くの天敵がいます。
日本にはいませんが、アリクイはシロアリも食べます。また、翅アリは新しい巣を作るべく空に飛び立ちます(群飛)が、飛び立った瞬間や飛び立つ前にツバメやカエルなどに大量に食べられてしまう事が多いです。
角野 智紀さん
シロアリを襲うアリでは、オオハリアリなどのハリアリ属が有名です。あと熱帯にはシロアリに寄生するハエもいます。
シロアリの翅アリを持ち去ろうとするクロアリ(2021/05/06アース製薬敷地内で撮影)(提供:アース製薬)
参考:「マレーシアでシロアリ(等翅目:ノミバエ科)に寄生する新種のScuttle Fly(双翅目:ノミバエ科)」
シロアリの昆虫食としての可能性
シロアリを食べるのは、動物や昆虫だけではありません。
実は、今話題の“昆虫食”としてもシロアリは注目されているんです。
とくに、西ケニアでは翅アリを食べる習慣があり、シーズンとなる雨季には罠をしかけて捕獲するそう。
動物性脂肪やタンパク質が豊富で高カロリーなシロアリ。ゆくゆくは、世界の食糧危機の救世主となるかもしれませんね。
シロアリが好きな匂い、苦手な匂い
ゴキブリの場合、匂いでエサを探します。好きな匂いには寄り付き、苦手な匂いには寄り付きもしません。
では、シロアリの場合はどうでしょうか。
匂いの好き嫌いはあるけど、濃度によって変わる
鈴木 優八さん
シロアリの場合、匂いについては濃度によって好き嫌いが変化します。好きとされている匂いでも強度が強くなると危険を感じて忌避してしまうので、一概にこの匂いが好きなどは言い切ることが難しいです。さまざまな研究がされていますが、土や木の中を移動するシロアリにとっては、匂いが広がりにくい場所で生息しており、水分の量・餌の有無によって移動する事の方が多いです。
内藤 龍太さん
シロアリはヒノキオイルやリモネンなど、生きている植物に多く含まれる香気成分を嫌うことが知られています。
シロアリは生きた木を喫食することはほぼありません。生きている木にはこれらの香気成分が多く含まれることが理由の一つであると考えられています。
シロアリは仲間の匂いが大好き!
内藤 龍太さん
シロアリは仲間の匂いや味を好みます。
シロアリの飼育に使っていた紙を、同じ巣の出身の別のシロアリに与えると、その紙に優先的に定着をします。常に集団で生きる彼らにとって、巣仲間の匂いは自分の身を守ることのできる安心できる心地よい香りなのかもしれません。
髙倉 武さん
同じ種類のシロアリでも、同じ巣でないシロアリ同士を遭遇させると、喧嘩してしまう事があります。自分の家族以外のよその家族のシロアリは、仲間じゃない!と認識してしまうのです。
まとめ
シロアリは、木なら何でも食べるわけではなく、枯れた柔らかい木を好むことが分かりました。つまり、築年数の経過した木造建築は狙われやすい!ということになりますね。
また、庭や近所に切り株や朽ち木がある場合も注意が必要です。
グルメなシロアリが集まる、人気レストランになっているかも!?