森林や公園、神社などで採集する昆虫は、カブトムシやクワガタが一般的。でも実は、ゴキブリも同じような場所に生息していて、ほかの昆虫と同様に採集を楽しめるというのです。“ゴキブリを採集できる”という情報に興味津々のゴキラボ編集部。そこで、これまで40種以上の日本産ゴキブリを採集してきたゴキブリスト・柳澤静磨さん(静岡県磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員)に、ゴキブリ採集の魅力をレクチャーしていただきました!
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ゴキブリは昆虫採集にピッタリ
「ゴキブリは採集向きの昆虫なんです」というのは、日本産ゴキブリの採集をしている柳澤さん。これまでに40種以上の日本産ゴキブリを捕まえてきたゴキブリ採集の達人です。
そんな柳澤さんに、なぜゴキブリが採集に向いているのかゴキラボ編集部が伺ったところ、
「昆虫好きの間でも、ゴキブリを採集している人は少ないのがいいですね。狙う昆虫が被らないので、一緒に採集へ出かけても競争にならない。むしろ、ゴキブリを見つけたら教えてくれます。カブトムシやクワガタなどの人気種を狙うよりは、はるかにゴキブリ採集の方がやりやすいですよ」(柳澤さん)と、ニッチな採集対象ならではのメリットを教えてくださいました。また、ゴキブリは出会える確率が高く、空振りに終わることがほとんどないのも魅力だそう。
ゴキブリの採集場所
「ゴキブリが生息しているのは、主に広葉樹の森林です。また身近なところであれば、神社や公園、お寺など、樹齢年数が経過した広葉樹のある場所も採集スポットになります。以前、東京産のワモンゴキブリが欲しくて、街中を探したこともありますよ」
都会にある公園でも、採集できるのはいいですね。
昆虫採集というと、自然豊かな場所で行うイメージですが、ゴキブリの場合は都会でも採集できるそうです。
「私が採集に行くのは、おもに南西諸島です。年間を通して気温が暖かいので、多種多様なゴキブリに出会うことができます。石垣島、西表島(イリオモテ)は生息している種類が多く、数もたくさん採れますよ」
南西諸島では、マルバネゴキブリ、コマダラゴキブリ、ヤエヤママダラゴキブリ、スズキゴキブリ、ウルシゴキブリ、サツマゴキブリ、ヒメマルゴキブリなど、1回の採集で10種類以上は期待できるそうです。ただし、南西諸島の森林にはハブがいるので、訪れる際には細心の注意をしましょう!
南西諸島には、さまざまなゴキブリが生息しています。
自然豊かな石垣島などは、ゴキブリのほかにもさまざまな昆虫が生息しています。なかには、採集が禁止されている種類もいて、昆虫採集をしていると地元の人から怪しまれることがあるそうですが、
「ゴキブリを採集していると伝えると、『全部採っていって!(笑)』と、好意的に接してくれます。ゴキブリを採集している人は珍しいので、地元の人に興味をもってもらえるみたいですね。ゴキブリがコミュニケーションツールになっています」
とのこと! なんと、ゴキブリがコミュニケーションツールになるとは驚きですね。
採集できるゴキブリの種類
日本で採集できる日本産ゴキブリの種類は57種。その大半は、野外に生息しているゴキブリです。なかには、めったに発見されない珍しい種類もいます。ここでは、日本で採集できるゴキブリの代表例をご紹介!
クロゴキブリ
特徴:光沢のある黒色をしている。
分布:日本(沖縄以南以外の本州中部以南が中心)など。
クロゴキブリについて詳しくは⇒『ゴキブリ4種の生態|生息地・成長・行動・寿命の違いとは?(クロゴキブリの生態)』
ワモンゴキブリ
特徴:胸部に薄い黄色の斑紋がある。
分布:日本(南西諸島以南と九州以北の温暖な地域中心)など。
ワモンゴキブリについて詳しくは⇒『ゴキブリ4種の生態|生息地・成長・行動・寿命の違いとは?(ワモンゴキブリの生態)』
オオゴキブリ
特徴:朽木を食べて暮らすゴキブリ。
分布:本州、四国、九州、隠岐(おき)、佐渡、八重山列島など。
ウルシゴキブリ
特徴:名前のとおり、漆塗りのようなツヤのある黒色をしている。
分布:北海道、本州(一部のみ)、四国、九州、南西諸島など。
木の幹にいるウルシゴキブリ。
ヤエヤママダラゴキブリ
特徴:体長35~50mmの日本最大のゴキブリ。
分布:八重山列島。
葉っぱの上にいるヤエヤママダラゴキブリ。
ヒメマルゴキブリ


特徴:外敵から身を守るために、ダンゴムシのように丸くなる。
分布:九州(一部のみ)、南西諸島。
ヒメマルゴキブリは小さいので捕まえるのが大変!
ゴキブリの探し方
屋内だと台所や洗面所などで発見しやすいゴキブリですが、自然界ではどこに潜んでいるのでしょうか。
「森の端や遊歩道、川沿いを歩いて探します。ゴキブリはいろいろな場所に潜んでいるため、木の幹や地面、葉っぱの上など、常に視線を動かしておくことが大切です」
広葉樹の森林の遊歩道で見つかるときもあります。
広葉樹の葉っぱの上や木の幹なども探しましょう。
カブトムシを捕まえる時のように、木にトラップを仕掛けておくことはできないの? と思う方もいらっしゃるでしょう。柳澤さん曰く、野外のゴキブリに関しては生態がよく分かっていない種も多いため、トラップを仕掛けるよりも、歩いて探すほうが早いのだそうです。
野外種のゴキブリは、生態の研究が進んでいないため、発見地があいまいなことが多い。だからこそ、思わぬ場所で、探していたゴキブリを見つけたといったサプライズもあったりするんじゃよ。

「生息環境を知らなかったチビゴキブリを、意外な場所で発見したことがあります。タラノキで、アブラムシの出す甘露という甘い蜜を食べていたんです。それまでゴキブリが甘露を食べることを知らなくて……。ずっと探していた種類だったので、その場で崩れ落ちるぐらい嬉しかったですね」と、チビゴキブリを発見した時のエピソードを楽しそうに話される柳澤さん。ゴキラボ編集部も思わず笑顔になりました。
ゴキブリ採集のシーズンと時間帯
季節
「ゴキブリの採集はオールシーズン行えます。樹皮や落ち葉の下で越冬する種類や、秋~冬に成虫が現れる種類もいるため、ゴキブリの採集にもっとも適した季節は種類ごとに違います。南西諸島でとにかくたくさんのゴキブリが見たい! という方には、気温的に採集もしやすくゴキブリも活動を行っている3~4月がベストシーズンです」
ゴキブリの採集期間が長いのは、幼虫期も成虫期もほとんど同じかたちをしているからなんじゃ。違いはいろいろあるが、完全変態を行うカブトムシなどの昆虫に比べると発見しやすいんじゃよ。幼虫期の彼らは、小さくてとってもかわいいぞ!

時間
ゴキブリ採集を行うのに、ベストな時間帯はあるのでしょうか。
「ゴキブリは多くの種類が夜行性なので、採集するのは、主に夜7時以降です。木の幹や林床に隠れているゴキブリが、活動をするために、姿を現したタイミングを狙います。明け方まで採ることができますが、ムリはしないように注意しましょう」
ただし、昼間に採集できるゴキブリもいます。例えばウスヒラタゴキブリ。日中は葉っぱの上にいるので、ビーティングネットを使って捕まえるそうです。ビーティングネットとは、長方形の網のこと。木の下に網を構え、棒で木をたたくと昆虫が落ちてくるという仕組みです。
ゴキブリの捕まえ方と道具
おススメの捕獲器はフィルムケース!
ゴキブリは体がとてもやわらかい昆虫です。手で捕まえようとすると、力加減を間違えて潰してしまったり、掴み損ねて逃げられてしまったりすることがあります。そんな問題を解決する、柳澤さんおススメの捕獲器を教えていただきました。
柳澤さんが、ゴキブリを何百匹と捕獲してきたフィルムケース。曇り具合に年季を感じますね。
「ゴキブリは透明なフィルムケースを使って捕まえます。使い方は、フィルムケースをゴキブリの頭の方から被せるだけ。そうすると、ゴキブリがフィルムケースをよじ登り、捕まえることができます」
フィルムケースの中にゴキブリを頭から入れて、捕まえます。
タッパーで保管する
「採集したゴキブリは、タッパーに入れて保管します。フィルムケースから直接タッパーに滑り込ませれば、逃げられる心配はありません。なお、ゴキブリを入れる時は、湿気がたまらないように、フタにキリで空気穴をあけ、足場となる木くずやティッシュを入れると完璧です」
ゴキブリは、フタに空気穴をあけたタッパーに保管します。
タッパーは機密性の高い容器なので、なるべく空調のきいた部屋で保管しましょう。ちなみに、柳澤さんの場合、ゴキブリ採集で南西諸島へ行くときは、必ず宿に泊まるそうです。
荷物を少なくしたい採集時は、重ねておけるタッパーがおススメじゃ。採集旅行中、「1日目で持参したタッパーを使いきってしまった!」という場合でも、街の雑貨店で購入できるぞ。わしがアマゾンで採集するときは、よくビニール袋を使っておったが、タッパーの方が便利じゃな。

ライトは2個持ち
懐中電灯とヘッドライトは、夜の昆虫採集に欠かせないと柳澤さんは言います。なぜヘッドライトも必要なのかというと、ゴキブリを捕まえる時に、いったん懐中電灯を手放さないといけないからです。
ヘッドライトと懐中電灯は必須です。
ゴキブリ採集時の服装
長袖&長ズボン、長靴を着用しましょう。
昆虫採集に出かける時の服装は、虫刺されとケガ防止のため、長袖&長ズボンが基本です。
「足元は長靴がベスト。ゴキブリが暮らしている森林は湿気が高く、地面がドロドロしているところが多いのと、水辺に暮らす種類を採集するために川に入ることもあるからです」
まとめ
ゴキブリ採集のポイント
- 採集場所はおもに森林。とくに南西諸島に多くいる
- 探すときは常に視線を動かす
- 採集時期はオールシーズン(種類によって適した時期あり)
- 採集は夜7時以降に行う
- 採集道具はフィルムケースが最強
近場で探せ、身近な道具を使って採集を楽しめるゴキブリ。大自然の中で遭遇するゴキブリは、私たちの持つ“昆虫いちの嫌われ者”というイメージを覆してくれるはず。ぜひ、フィルムケースを片手にゴキブリ採集にでかけてみてはいかがでしょうか。
取材協力
静岡県磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員/ゴキブリスト
柳澤静磨さん(Twitter/ブログ「ゴキブリ屋敷」)
※記事内のゴキブリの写真はすべて柳澤静磨さんによる撮影(クロゴキブリ、ワモンゴキブリは除く)
静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園職員。企画展「ゴキブリ展G(グレート)(2019年開催)」や「ゴキブリ展3(2020年開催)」、さらにゴキブリの生態を紹介するトークショーなど、ゴキブリの魅力を伝えるイベントを担当。また、自宅でも国内外のゴキブリを多数飼育するほか、日本産ゴキブリを採集するために定期的に南西諸島へ訪れている。
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