
「シロアリはアリじゃなくゴキブリの仲間」と聞くと、驚く方も多いのではないでしょうか。見た目も食性も違うのに、なぜ同じ分類になるのか不思議ですよね。
当記事では、シロアリとゴキブリの似ている点や、名前は似ているのに仲間ではないアリとの違いを解説していきます。
「シロアリ対策をすればゴキブリも出ない?」
「羽アリはゴキブリ駆除剤で退治できる?」
などの疑問も一緒に解決していきましょう。
- シロアリがゴキブリの仲間だと証明されたのは最近
- シロアリに似たゴキブリとゴキブリに似たシロアリ
- 住宅に出没するシロアリとゴキブリは似ていない!
昆虫分類学上はシロアリはゴキブリの仲間
シロアリは、現在の分類学では「昆虫綱ゴキブリ目シロアリ科」に属すると考えるのが一般的です。
なぜ、見た目や大きさからはとても遠い存在に思えるシロアリとゴキブリが仲間といわれるのでしょうか。実は仲間ではないアリとの違いもあわせてご紹介していきます。
シロアリの分類が見直された経緯
シロアリはもともと、独立した系統のシロアリ目であると考えられてきました。
しかし、2000年代に入ると、分子系統学(タンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列を分析して進化の道筋を解明する学問)によって、シロアリはゴキブリと同じ祖先から進化した昆虫だと判明したのです。
ただし、もとの分類である「シロアリ目」のなかにもシロアリ科やシロアリ亜科があるため、単純に「ゴキブリ目シロアリ科」へ格下げしたのでは混乱を招いてしまいます。
また、形態に基づく分類では「シロアリは独立した系統として考えるべきだ」という主張もあり、2010年12月時点でもシロアリは「シロアリ目」として扱われていました。
(参考:文化財虫害研究所「シロアリ目」)
現在は、上科(Superfamily)と科(Family)の間に新たに作られた外科(Epifamily)を用いてゴキブリ目シロアリ外科(Epifamily Termitoidae)と分類されています。科や亜科の名称を変更することなく、ゴキブリとの近縁関係を示せる分類方法です。
(参考:比較生理生化学「シロアリの社会性とそれを支える生理/神経機構」)
一般的には上科や外科などの階級名は省略して、単純に「昆虫綱ゴキブリ目シロアリ科」と呼ばれますが、「シロアリ目」の名称を使い続けているシロアリ研究者もいます。
なお、生物の分類は新たな発見があるたびに変更や修正がおこなわれるため、今後も変化していく可能性はあります。
似た生態をもつシロアリとゴキブリ
いくら分類学的に同じ祖先をもつといわれても、私たちが普段目にするゴキブリと家屋を加害するシロアリはとても仲間だとは思えませんよね。
しかし、シロアリもゴキブリも、日本の住宅に出没するのは数ある種類のほんの一部です。
ゴキブリのなかには、シロアリと同じく朽木に生息して木材を食べる食材性ゴキブリがいます。
原始的なシロアリであるムカシシロアリと、食材性ゴキブリとして代表的なキゴキブリの共通点をご紹介します。
- 朽木に住んで朽木を食べる
- 腸内に原生生物がいる
- 一夫一妻制の家族で生活する
- 卵をかたまり(卵鞘)で産む
- 羽のうしろが膨らんだ形をしている
日本の家屋を加害するヤマトシロアリやイエシロアリがそうであるように、ムカシシロアリもキゴキブリも枯れ木や腐った木を食べます。木材の主成分であるセルロースの分解を、腸内に共生する原生生物がおこなっている点も共通です。
集団の数こそシロアリが桁違いに多いですが、オスとメスがペアになって繁殖をする点も似ていますね。
また、他のシロアリとは違い、ムカシシロアリは卵鞘(らんしょう)というかたまりで卵を産みます。これは、ゴキブリの産卵と同じ特徴です。ゴキブリの卵鞘については以下の記事をご覧ください。
そして、体のつくりにも似たところがあります。他のシロアリの羽アリは前後4枚の羽の形がそろっていますが、ムカシシロアリの羽アリはゴキブリと同じく、羽のうしろに臀片(でんぺん)と呼ばれる膨らみがあります。
日本の家屋に出没するシロアリの大きさが5mm前後なのに対し、ムカシシロアリは10mm以上、羽アリでは30mm以上になるほど大きく「Giant Northern Termite(巨大な北のシロアリ)」と呼ばれている。
家屋に深刻な被害を与えるため、現地では害虫として扱われている。
(参考:OzAnimals.com「Giant Northern Termite (Mastotermes darwiniensis)」)
シロアリと同じく、朽木を土にかえす役割を担っている。
北アメリカに分布している種で、日本には生息していない。
シロアリとアリの違い
近年の研究によってシロアリはゴキブリの仲間だと証明されましたが、名前は「シロアリ(白蟻)」と、まるでアリの仲間のようですよね。
シロアリの名前の由来は、体の小ささや、集団で役割分担をする高度な社会性がアリと共通していることだと考えられています。
- 大きさが5mm前後の種類が多い
- 女王アリ、羽アリ、兵隊アリ、働きアリなどの階級で役割分担して集団生活をする
ただし、両者の生態や特徴を詳しく見ていくと、さまざまな違いがあることがわかります。
- シロアリはゴキブリの仲間、アリはハチの仲間
- シロアリのコロニーには王アリもいる、アリのコロニーに王アリはいない
- シロアリは不完全変態、アリは完全変態
アリは「ハチ目アリ科」に分類されるハチの仲間です。
シロアリは女王アリと王アリのペアでコロニーを作りますが、アリに王アリはいません。アリのオスは繁殖期にだけ産まれ、羽アリとして飛び立って交尾をおこなうとすぐに死んでしまいます。
また、アリが幼虫から成虫へと成長する過程でサナギになる完全変態なのに対し、シロアリはサナギの期間がない不完全変態です。
王がいないことも完全変態であることも、ハチとアリの共通の特徴です。
シロアリ予防をおこなえばゴキブリも出なくなる?
「シロアリがゴキブリの仲間なら、シロアリ駆除剤はゴキブリにも効くのでは?」と思う方も多いでしょう。
実際に、シロアリ駆除剤はゴキブリにも効果があります。しかし、シロアリ防除の施工は、ゴキブリ予防にはなりません。
シロアリとゴキブリの生態を比較しながら、理由を解説していきます。
家屋に出るシロアリとゴキブリは生態が違う
「似た生態をもつシロアリとゴキブリ」の章でムカシシロアリとキゴキブリの共通点をご説明しましたが、日本の家屋に出没するシロアリとゴキブリとでは侵入経路や食性に大きな違いがあります。
シロアリ | ゴキブリ | |
---|---|---|
侵入経路 | おもに床下の土壌から侵入する。 | 扉や通気口、配管など、隙間があればどこからでも侵入する。 |
食べるもの | おもに木材。畳やダンボールを食べることもある。 | 雑食で人間の食べるものならほとんど何でも食べる。 |
日本のシロアリは土壌から家屋に浸入し、木材を加害します。そのため、シロアリ防除の施工は床下の土壌や木材への薬剤散布をおこなうのが一般的です。
一戸建ての住宅では床下がゴキブリの侵入経路になることも多く、「シロアリ駆除をしたらゴキブリも見かけなくなった」という例もあります。
しかし、ゴキブリはわずかな隙間さえあればどこからでも侵入できるため、シロアリ予防の薬剤散布ではゴキブリ被害は防ぎきれないのです。
また、木材の内部に浸透した薬剤によってシロアリ予防の効果は5年程度続きますが、ゴキブリに対しては長期間の効果は期待できません。
ゴキブリが完全にいなくなるほどの強力な薬剤を家中に散布すれば、人間にとっても害となってしまいます。
ゴキブリ対策にもなるシロアリ対策
シロアリ防除の薬剤散布で同時にゴキブリ駆除をおこなうことはできませんが、湿気対策をおこなうことはシロアリ予防にもゴキブリ予防にも有効です。
シロアリもゴキブリもジメジメとした湿気の多い場所を好みます。床下や浴室、キッチン、玄関などの換気や掃除をこまめにおこない、シロアリにもゴキブリにも住み着かれにくい環境を作りましょう。
確実にゴキブリを退治したいなら専用アイテムを使おう
「掃除をしていてもゴキブリが出る!」「もっと確実にゴキブリを退治したい!」という方は、ゴキブリ専用の対策アイテムを使用しましょう。
以下の記事では、ゴキラボ編集部が実際に商品を試した結果がご覧いただけます。ゴキブリが苦手な方でも使用しやすいアイテムもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
ゴキブリ用殺虫剤でシロアリも駆除できる?
「シロアリ駆除剤でゴキブリも退治できるか?」という疑問とは逆に、「ゴキブリ駆除剤を使えばシロアリも退治できるのでは?」と考える方もいらっしゃいますよね。
ゴキブリ用の殺虫剤は、シロアリに対する殺傷能力もあります。しかし、シロアリにゴキブリ用の殺虫剤を吹きかけることはおすすめできません。
シロアリは土壌や木材の内部に生息し、何十万匹もの個体でコロニーを形成することもあります。そのため、表面化した被害部分にだけ殺虫剤を吹きかけても根本的な駆除にはならないのです。
しかも、危険を感じた個体が分裂して建物のさらに奥へと移動してしまい、被害範囲を拡大させてしまうおそれすらあります。
シロアリ被害や羽アリを見つけたら、害虫駆除業者に依頼して専用薬剤で駆除してもらいましょう。
まとめ
現在の分類学では、シロアリはゴキブリ目シロアリ科に属するゴキブリの仲間だと考えられています。名前も見た目も似ているアリはハチと同じ祖先をもつのに対し、シロアリの祖先はゴキブリと同じなのです。
ただし、分類的には仲間でも、家屋に出没するシロアリとゴキブリは食性や生息場所が違います。そのため、シロアリ防除の薬剤散布をおこなってもゴキブリの侵入は防げません。
また、シロアリに対してゴキブリ用殺虫剤を使うことも、被害を悪化させてしまう危険性があり不適切です。
シロアリの予防や駆除は、害虫駆除業者に依頼して専用の薬剤を散布してもらいましょう。ゴキブリの徹底的な駆除をご希望なら、ゴキラボにご相談ください。