屋内に侵入するゴキブリの代表格といえば、クロゴキブリ・ヤマトゴキブリ・ワモンゴキブリ・チャバネゴキブリの4種じゃが、近年では、別の種類も確認されておる。それは、もともとは九州や四国南岸地域を中心に生息しておったゴキブリたちじゃ。今回は、生息地域の拡大が気になる5種を紹介しよう。

北上するゴキブリたち
世界中に約4000種以上いるゴキブリの多くは、暖かな場所に生息する熱帯・亜熱帯性です。
日本の屋内で見かける主要ゴキブリ4種のうち、ワモンゴキブリは熱帯性、チャバネゴキブリが亜熱帯性です。
ワモンゴキブリとチャバネゴキブリについて詳しくは⇒『【診断】日本のゴキブリ4種の生態(特徴・寿命・生息地・成長速度)』
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)、『日本産直翅類図鑑』(学研プラス)から作成
日本では1900年代後半から、もともとは九州や四国南岸地域を中心に生息していた熱帯・亜熱帯性のゴキブリが、本州でもちらほらと目撃されるようになりました。彼らは、北上して生息地を拡大しているわけです。
北上するゴキブリとは一体どのような種類なのでしょうか? どのような場所が巣になるのでしょうか? 生息範囲の拡大が気になるゴキブリの種類をチェックしていきましょう。
サツマゴキブリ
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)、『日本産直翅類図鑑』(学研プラス)から作成
学名 | Opisthoplatia orientalis(Burmeister) |
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英名 | Litter cockroach |
体長 | 25~35mm |
形態的な特徴 | 小判型で翅がなく、成虫は全体にツヤのある黒色。前胸背側に淡黄色の外縁、胸部~腹部には赤色の外縁がある。幼虫はツヤの無い灰褐色 |
気候適応 | 熱帯性 |
生息地域 | 日本(九州南部、四国、琉球列島が中心)・インド・中国・台湾・インドネシア(ジャワ島)など |
生息地の特徴 | 森林や道端にある倒木や石などの下 |
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)から作成
サツマゴキブリは屋外に生息する野外種で、中国では現在でも薬用として利用されているゴキブリです。
薬用のゴキブリについて詳しくは⇒『💊薬用ゴキブリの歴史:中国では現役!漢方薬にサツマゴキブリ』
サツマゴキブリの日本における分布は、九州や四国南岸が北限でした。ところが近年では静岡県、千葉県、和歌山県、神奈川県、愛知県などでも生息が確認されています。
注意しておきたいのは、サツマゴキブリは野外種であるにもかかわらず、屋内に侵入する例が少なからず報告されていることです。おそらく、観葉植物などに紛れ込んで屋内に侵入したのではないかと考えられます。そのまま屋内で繁殖することもありますが、チャバネゴキブリのように、大量繁殖する種類ではありません。
チャオビゴキブリ
『屋内ゴキブリ 写真と参考データ』(環境生物研究会)から作成
学名 | Supella longipalpa(Fabricius) |
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英名 | brown-banded cockroach |
体長 | 11~13mm |
形態的な特徴 | オスは、全体的に明るい薄茶色、細く長い翅。メスは、全体に暗めの茶色、幅広でやや短い翅 |
気候適応 | 熱帯・亜熱帯性 |
生息地域 | 日本(小笠原諸島父島が中心)・世界各地 |
生息地の特徴 | 非森林地域の屋外、屋内 |
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)から作成
世界的な害虫として知られるチャオビゴキブリ。日本では小笠原諸島父島だけに分布していましたが、近年は、福岡や沖縄諸島、東京都内の屋内で目撃されています(komatus,2015)。
チャオビゴキブリは屋内で活発に飛翔するので、今後分布が拡大すれば注意が必要です。
アメリカのマイアミでは、寝室や居間をぶんぶんと飛び回る厄介な害虫として認識されている
チャオビゴキブリとチャバネゴキブリ。名前は似ているけれども、生態はずいぶんと違うのお。今のところ、チャオビゴキブリの分布拡大は、東京都以外にはほとんど見られておらず、住宅への侵入はそこまで心配しなくてもいいじゃろう。

チュウトウゴキブリ(トルキスタンゴキブリ/レッドローチ)
『屋内ゴキブリ 写真と参考データ』(環境生物研究会)から作成
学名 | Blatta lateralis(Walker) |
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英名 | Turkestan coclroach |
体長 | 19~26mm |
形態的な特徴 | オスとメスとでは形態も色彩も大きく異なる。オスはクロゴキブリをやや小型にして薄茶色にした形態。メスは黒褐色で翅が短く腹部や後ろ胸の背面が露出している |
気候適応 | 熱帯・亜熱帯性 |
生息地域 | 日本(近畿地方など)・東北アフリカ・中央アジア・アメリカなど |
生息地の特徴 | 屋外、屋内 |
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)から作成
チュウトウゴキブリは、約30年以上前から日本で見られるようになりました。これまでに、近畿地方の港湾周辺(木村ら,2003)や愛知県の倉庫(角野ら,2006)などでの目撃が報告されています。
今後、チュウトウゴキブリが各地で発見される可能性はあります。しかし寒さに弱いため、生息エリアは、暖かな環境が一年中保たれる場所に限定されると考えられます。
滑面を上れず繁殖が容易なため、ペットの餌または飼育用として「レッドローチ」の名で販売されてもいます。
また、チュウトウゴキブリは昆虫食の食材にもなり、人が食べることも可能です。
昆虫食としてのゴキブリについて詳しくは⇒『🐛食用ゴキブリ実食!女子2人で米とサーカスの昆虫食イベントに行ってきた!』
トビイロゴキブリ
『屋内ゴキブリ 写真と参考データ』(環境生物研究会)から作成
学名 | Periplaneta brunnea(Burmeister) |
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英名 | browan cockroach |
体長 | 25~30mm |
形態的な特徴 | ワモンゴキブリに似た大型種。ワモンゴキブリよりも、前胸背の斑紋が明白ではなく、尾肢が太め |
気候適応 | 熱帯・亜熱帯性 |
生息地域 | 日本(全国に散発的に分布)・世界の熱帯・亜熱帯地域 |
生息地の特徴 | 屋外、屋内 |
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)から作成
チャオビゴキブリ同様に、世界的な害虫種です。日本では地下街や飲食店、マンホールの中といった一年中暖かく湿度の高いエリアで生息が確認されています。中でも、大阪の地下街には多数が定着しており、その捕獲数は、飲食店や工場で大量繁殖するチャバネゴキブリと同程度だといわれています(Imai,2011)。
ちなみに、トビイロゴキブリとチャバネゴキブリは、同じ地下街にはいるもののエリアを棲み分ける傾向があります(Imai,2011)。トビイロゴキブリは、より高温で湿度の高い場所を好みます。
オガサワラゴキブリ
『屋内ゴキブリ 写真と参考データ』(環境生物研究会)から作成
学名 | Pycnoscelus surinamensis(Linnaeus) |
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英名 | Surinam cockroach |
体長 | 12~18mm |
形態的な特徴 | 肢が短くずんぐりしている。翅は黄褐色、前胸背はツヤのある黒褐色で、前胸背の前縁に黄色の縁取りがある |
気候適応 | 熱帯・亜熱帯性 |
生息地域 | 日本(小笠原諸島・南西諸島のほか、本州の温室中心)・世界の熱帯・亜熱帯の平地 |
生息地の特徴 | 基本的には屋外 |
『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)から作成
屋外性のオガサワラゴキブリは、森の土壌表面や落ち葉の中に生息していますが、日本では、温室や植木鉢の中で見られます。一般住宅への侵入は、観葉植物の鉢によって持ち込まれた例があります。

温室ではコワモンゴキブリ(ワモンゴキブリに似ているやや小型の種類)もよく見られます。同じ温室内にいても、オガサワラゴキブリはおもに地上や腐植土中で活動し、コワモンゴキブリは夜間に植物の若葉などを食べる傾向があります。
ゴキブリが北上する理由
国内の限られた地域に生息していたゴキブリが北上するおもな理由は、「地球温暖化」と「施設や住宅環境の温暖化」です。
今回挙げた5種のように、屋内に侵入する場合は、後者の「施設や住宅環境の温暖化」、つまり、地下街や屋内の空調管理が改善した影響が大きいといえます。年中暖かな場所が増えたことは、私たち人間だけでなく、ゴキブリにも快適さをもたらしたわけですね。
今後温暖化が進めば、ゴキブリたちの生息地域はさらに広がる可能性があります。
ただし、平均気温が2、3度上昇したり、暖房を年中つけっぱなしする生活スタイルになったりしない限りは、一般住宅への影響はそこまで心配する必要はないでしょう。注意が必要だとすれば、地下街や工場、飲食店などの一年中暖かな施設です。
飲食店のゴキブリ対策について詳しくは⇒『🍴飲食店用・チャバネゴキブリ対策ガイド!駆除業者依頼前にやる4つのこと』
まとめ
今回は、近年生息地域が広がったゴキブリ5種について見てきました。
- サツマゴキブリ
- チャオビゴキブリ
- チュウトウゴキブリ(トルキスタンゴキブリ)
- トビイロゴキブリ
- オガサワラゴキブリ
現在のところはどのゴキブリも、一般住宅への侵入はそこまで心配しなくても大丈夫です。地下街や工場、飲食店などの一年中暖かな施設は注意が必要かもしれません。
いずれにしても、これらのゴキブリは、ベイト剤やスプレー式駆除剤などの市販の対策アイテムで駆除することができます。もし見かけたとしても慌てずに対応してくださいね。
おススメの対策アイテムについて詳しくは⇒『全40種を調査💪最強ゴキブリ対策アイテムはどれ?殺虫剤からベイト剤まで徹底比較』
- 『衛生害虫ゴキブリの研究』(北隆館)
- 『日本産直翅類図鑑』(学研プラス)
- 国立環境研究所/侵入生物データベース「サツマゴキブリ」
- 日本本土で生息が確認されたチャオビゴキブリ
- 愛知県におけるトルキスタンゴキブリ Blatta laterα lis lateralis(Walker)の倉庫内での生息状況
- Imai, K. (2011) Cockroach assemblages and habitat segregation in threesites in Osaka City, central Japan. Jpn. J. Environ. Entomol. Zool., 22:
139–145. - 神戸で捕獲されたトルキスタンゴキブリ(新称)Blatta (Shelfordella) lateralisについて
- 『屋内ゴキブリ 写真と参考データ』辻,環境生物研究会,2011